よ」と賞める鼻が「賞めたい事はちっともない」と裏書きし、「妾《わたし》もうお芝居は見飽きちゃったのよ」と見栄を言いながら実は行きたい鼻の先のジレンマなぞ、数え立てると随分あります。
 鼻の表現がその本人の意志を偽らないと同様に、その本人の性格を表現する場合でも決してその真相を誤らないのであります。
 性格が愚鈍である以上、その鼻の尖端に才気の閃きは決して見る事が出来ないのであります。いくら謹み返っていても性得ガサツ者である限り、鼻は何となくソワソワしているものであります。
「もう私は今度でこりごりしました。ふっつり道楽を思い止《とど》まりました。ふだんの御恩がわかりました。何卒今度切りですから、助けると思って今一度お金を頂戴」
 と両手を突いて涙をこぼしている息子の鼻が、昔の通りニューとしている。こんなのはテッペンから、
「糞でも喰らえ、この野郎。今度切りが何遍あるんだ。トットと出てうせろ」
 とたたき出されます。
「何だ喧嘩だ。喧嘩なら持って来い。俺が相手になってやる。篦棒《べらぼう》めえ、誰だと思っていやがるんだ」
 と大見得を切って立ち上っても、臆病者の鼻の表現は必ず魘《おび》え
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