(十)
少々余談に亘りますが、男性の中でも夫と名付くる種類の中《うち》には、どうかすると吾家《わがや》に帰って来るたんびに、初めから怒鳴り込んで来るのがあります。
さもなくとも何か知ら機嫌が悪くて、事毎《ことごと》に難癖をつける。まごまごすると烈火のように爆発するなぞいう難物があります。この心理状態を解剖すると非常に複雑になりますが、要するに吾が家に近付くに従って、前に述べました原則に従って暗い記憶が鮮かに解って来る。それにつれて嬶《かかあ》や子供の何も知らぬ顔付きが、恰《あたか》も良心の刺激その物のように腹立たしいものにかわって行く。その罪の無い鼻の表現に対する自分の暗い鼻の表現が、無意識のうちに気がかりになって、苛立たしい不愉快な気持ちになって行く。それをそうとは自分でも意識し得罪も無い枕を投げるような事にもなる。又はこのような心理状態を自分で認めていながらのテレ隠しもあるという次第で、鼻の表現がその暗さと空虚さを使いわけて、このような怒りの表現を一々裏切って行く点に変りは無いのであります。
ですからしまいには女子供にまで馬鹿にされて、「ソラお帰りだ」とか「又初まった」位に
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