いながらブクブクブクと沈んで行く。その表情のムゴタラシサ……それを上から見い見いブラ下がっている連中の悲鳴のモノスゴサといったらなかったよ。
 そんな光景を見殺しにしながら仕事をしていた吾輩は、仕事が済むとモウ矢も楯《たて》もたまらない。道具袋を海にタタッ込んで、抜手を切って沖合いの小舟に泳ぎ付いた。血だらけの櫓柄《ろづか》を洗って、臍《へそ》に引っかけると水舟のまま漕ぎ戻して、そこいらのブクブク連中をアラカタ舷《ふなべり》の周囲に取付かせてしまったので、とりあえずホッとしたもんだ。
 その間に来島は本船に上って、帆布《キャンバス》で塞いだ穴の内側から、本式にピッタリと板を打付けた。一層|馬力《ばりき》をかけて水を汲み出す一方に、在《あ》らん限りの品物を海に投込む。ボートの連中を艙口《ハッチ》から収容すると、今度は船員が漕ぎながら人間を拾い集める。綱を持った水夫を飛込ましてブカブカ遣っている連中を拾い集める。上って来た奴は片《かた》っ端《ぱし》から二等室に担ぎ込んで水を吐かせる。摩擦する。人工呼吸を施すなどして、ヤットの事で取止めた頭数を勘定してみると、警官、役人、有志、人夫を合わせて
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