ころが翌《あく》る朝になってみると又、驚いた。勿論、新聞記事には一行も書いて無かったが、向うの本桟橋の突端に横付けしている慶北丸が新しい万国旗で満艦飾をしている。五百|噸《トン》足らずのチッポケな船だったが、まるで見違えてしまっている上に、デッキの上は丸で宴会場だ。手摺《てすり》からマストまで紅白の布で巻き立てて、毛氈《もうせん》や絨壇《じゅうたん》を敷き詰めた上に、珍味|佳肴《かこう》が山積して在る。それに乗込んだ一行五十余名と一所《いっしょ》に、地元の釜山はいうに及ばず、東莱《とうらい》、馬山《ばさん》から狩り集めた、芸妓《げいしゃ》、お酌、仲居《なかい》の類いが十四五名入り交って足の踏む処もない……皆、船に強い奴ばかりを選《よ》りすぐったものらしく、十時の出帆前から弦歌の声、湧くが如しだ。
友吉親子が漕いで行く小舟に乗って、近づいて行った吾輩は、この体態《ていたらく》を見て一種の義憤を感じたよ。……何とも知れない馬鹿にされたような気持ちになったもんだが、しかし今更、後へ引く訳には行かない。不承不承にタラップへ乗附けると忽《たちま》ち歓呼の声湧くが如き歓迎ぶりだ。すぐに甲板《デッ
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