から不可《いか》ん。……よしんば貴様の云うのが事実としても尚更の事じゃないか。知らん顔をして註文通りにして遣った方が、こっちの腹を見透かされんで、ええじゃないか。……アトは又アトの考えだ。……とにかく今度の仕事は俺に任せて云う事を聴け。承知しろ承知しろ……」
と詭弁まじりに押付けたが、そうなると又、無学おやじだけに吾輩よりも単純だ。云う事を云ってしまった形でションボリとなって、
「それあ先生が是非にという命令なら遣らんとは云いません。腕におぼえも在りますから……」
と承知した。するとその時に廿歳《はたち》になっていた忰《せがれ》の友太郎も、親父《おやじ》が行くならというので艫櫓《ともろ》を受持ってくれたから吾輩、ホッと安心したよ。友太郎はその時分まで、南浜《なんひん》鉄工所に出て、発動機の修繕工《つくろい》を遣る傍《かたわ》ら、大学の講義録を取って勉強していたもんだが、それでも櫓柄《ろつか》を握らしたらそこいらの船頭は敵《かな》わなかった。よく吾輩の釣のお供を申付けて見せびらかしていた位だったからね。
そこでこの二人を連れて、釜山公会堂に引返して、判事や検事連に紹介したが見覚えて
前へ
次へ
全113ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング