かってケツカル。朝鮮中の役所という役所の当り当りにスッカリ手を廻わして、仲間外れの抜け漁業《ドン》ばっかりを検挙させよるから、吾々の眼に止まらんです。……今来ているそこ、ここの有力者というのは、一人残らずそのドン仲間の親分株で、役人連中は皆、薬のまわっとるテレンキューばっかりに違いありません。そいつ等《ら》が、先生に睨まれんように、わざと頬冠りをして聞きに来とるに違いないのです。それじゃケニ先生の演説が聞きともないバッカリに、そげな桁行《けたはず》れの註文を出しよったのです。……それが先生にはわかりませんか……」
と眼の色を変えて腕を捲くったもんだ。
今から考えるとこの時に、このおやじの云う事を聞いていたら、コンナ眼にも会わずに済んだんだね。……このおやじの千里眼、順風耳《じゅんぷうじ》のモノスゴサを今となって身ぶるいするほど思い知らされたものだが、しかしこの時には所謂《いわゆる》、騎虎《きこ》の勢いという奴だった。そういう友吉おやじを頭から笑殺してしまったものだ。
「アハハハ。馬鹿な。それは貴様一流の曲り根性というものだ。お前は役人とか金持ちとかいうと、直ぐに白い眼で見る癖がある
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