ほか、案外極まる不機嫌な面《つら》を膨《ふく》らましたもんだ。
「それはドウモ困ります。私は日蔭者で沢山なので、先生のために生命《いのち》を棄てるよりほかに何の望みもない人間です。あんなヘッポコ役人の御機嫌を取って、罪を赦《ゆる》してもらう位いなら、モウ一度、玄海灘で褌《ふんどし》の洗濯をします。まあ御免蒙りまっしょう」
というニベもない挨拶だ。将棋盤から顔も上げようとしない。このおやじ[#「おやじ」に傍点]がコンナ調子になったら梃《てこ》でも動かない前例があるから弱ったよ。
「しかし俺が承知したんだから遣ってくれなくちゃ困るじゃないか。今更、そんな人間はいなかったとは云えんじゃないか」
とハラハラしながら高飛車をかけて見ると、おやじはイヨイヨ面《つら》を膨らました。
「それだから先生は困るというのです。アノ飲み助のお医者さんも云い御座った。先生は演説病に取付かれて御座るから世間の事はチョットもわからん。しかしあの病気ばっかりは薬の盛りようがないと云って御座ったがマッタクじゃ。……一体先生は、アイツ等が本気で爆漁実演《ドン》を見たがっていると思うていなさるのですか」
と手駒を放り
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