「……というのは、ほかの問題でもない。その爆弾漁業の実演者についてこっちにも一つ心当りがあるのだ。その人間はズット以前にドンを遣っていた経験のある人間だが、当局の諸君は勿論の事、一般の漁業関係の諸君が、その人間の過去を絶対に問わない約束をするなら、その生命《いのち》がけの仕事に推薦してみよう。現在ではスッカリ改心して、実直な仕事をしているばかりでなく、素敵もない爆弾漁業通だから将来共に、君等のお役に立つ人間じゃないかと思うが……」
 と切り出してみた。これはかねてから日蔭者《ひかげもの》でいた林友吉を、どうかして大手を振って歩けるようにして遣りたいと思っていた矢先だったから、絶好の機会《チャンス》と思って提案した訳だったがね。
 するとこの計略が図に当って、忽《たちま》ちのうちに警察、裁判所連の諒解を得た。……それは一体どんな人間だ……と好奇の眼を光らせる連中もいるという調子だったから、吾輩、手を揉み合わせて喜んだね。早速横ッ飛びに本町の事務室に帰って来て、小使部屋を覗いてみると、友吉|親仁《おやじ》は忰と差向いでヘボ将棋を指している。そいつを捕まえてこの事を相談すると、喜ぶかと思いの
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