吾輩の意気、応《まさ》に衝天《しょうてん》の概《がい》があったね。
大正八年……昨年の十月十四日……そうだ。山内さんが死なれる前の月の出来事だ。その第一|日《じつ》の午前十時から「爆弾漁業の弊害」という題下に、堂々三時間に亘った概論を終ると、満場、割るるが如き大喝采だ。そのアトから各地の有力者の中《うち》でも代表的な五六名が、吾輩の休憩室に押掛けて来て頗《すこぶ》る非常附きの持上げ方だ。
「……イヤ感佩《かんぱい》致しました。聴衆の感動は非常なものです。先生の御熱誠の力でしょう。三時間もの大演説がホンノちょっとの間《ま》にしか感じられませんでした。当局連中もスッカリ感激してしまって、今更のように切歯扼腕《せっしやくわん》しているような次第で……私共も一度はドンで年貢を納めさせられた前科者《ナッポンサラミン》ばかりですが、今日の御演説を承りまして初めて眼が醒めました。何でもカンでも轟先生が朝鮮に御座る間は悪い事は出来んなア……とタッタ今も話しながらこっちへ参りましたような事で……アハハハ……イヤ、恐れ入ります。……ところでここに一つ無理な御相談がありますが御承諾願えますまいか。……と
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