者《ひとりもの》の晩酌で、羽化登仙《うかとうせん》しかけているところへ、友吉の屍体を担《かつ》ぎ込んで、何でもいいから黙って死亡診断書を書いてくれと云うと、鶴髪童顔先生フラフラの大ニコニコで念入りに診察していたが、そのうちに大声で笑い出したものだ。
「……アッハッハッハッ。折角持って来なすったが、これは死亡診断を書く訳にいかんわい。まだ脈が在るようじゃ。アッハッハッハッハッ……」
という御託宣だ。……馬鹿馬鹿しい。何を吐《ぬ》かす……とは思ったが、忰が飛び上って喜ぶし、呑兵衛《のんべえ》ドクトルも、
「……拙者が請合って預かろう。行くか行かんか注射をしてみたい……」
と云うから、どうでもなれと思って勝手にさしておいたら……ドウダイ。二日目の朝になったら眼を開いて口を利くようになった。
傷口も処々乾いて来た。熱も最早《もう》引き加減……という報告じゃないか。呑兵衛先生、案外の名医だったんだね。おまけに忰の友太郎が又、古今無双の親孝行者で、二晩の間ツラリ[#「ツラリ」に傍点]ともしない介抱ぶりには、流石《さすが》のワシも泣かされた……という老|医師《ドクトル》の涙語りだ。
そこで吾
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