明け話だ。……フウン。多分ソンナ事じゃろうと思うてワザワザ訪ねて来た……ウンウン。流石《さすが》は商売人だけある。アハハハ。イヤ。馬鹿にしとる訳じゃない。そんなら尚の事、話し甲斐《がい》があるんだ。……実は吾輩もこの問題に就《つ》いては千秋の遺恨を含んでいるんだからね。今云った朝野の巨頭連は、馬鹿正直な吾輩一人を蹴落して、自分等の不正事実を蔽い隠そうと試みているのだ。吾輩の事業の隠れたる後援者であった山内正俊閣下が、去年の十一月に物故されて以来、吾輩が木から落ちた猿同然、手も足も出なくなっている事を、彼奴《あいつ》等はチャンと知っていやがるんだ。彼奴《きゃつ》等の肉を裂き、骨をしゃぶっても飽き足りない思いを抱きながら吾輩は、この釜山港口、絶影島《まきのしま》の一角に隠れて、自分の食う魚を釣っていたんだ。
ナニ……何だって。君の今度の旅行は、そのための秘密調査が目的だ……? 温泉巡りとは真赤な偽り……脊髄カリエスの静養休暇は検事総長と打合わせた芝居に過ぎん……?
……エエッ……何という。ホントウかいそれあ。ヘエ――ッ……。
こいつは一番、驚いたね。いくら何でも、チイット炯眼《けいが
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