り徹底的に、沿海の魚獲を引泄《ひきさら》って行くには行くが、それでもプランクトンだけは確実に残して行くのだ。
 ところが爆漁《ドン》と来ると正反対だ。あっちでもズドン、こっちでもビシンと爆発して、生き残った魚群の神経に猛烈な印象をタタキ込むばかりでない。そこいらの水とおんなじ位に微弱なプランクトンの一粒一粒を、そのショックの伝わる限りステキに遠い処までも一ペンに死滅させて行くんだからタマラない。……対州が何よりのお手本だ。……餌の無い海に用はないというので、魚群は年々、陸地から遠ざかって行くばかり……朝鮮海峡をサッサと素通りするようになる。年額七百万円の鯖が五百万、二百万と見る見るうちにタタキ下げられて行く。税金が納められないどころの騒ぎじゃない。小網元の倒産が踵《くびす》を接して陸続《りくぞく》する。吾輩が植え付けた五十万の漁民が、眼の前でバタバタと飢死して行くのだ。
 ここに於て吾輩は猛然として立上った。実際、臓腑《はらわた》のドン底から慄《ふる》え上ってしまったのだ。……爆弾漁業、殲滅《せんめつ》すべし。鮮海五十万の漁民を救わざるべからず……というので、第一着に総督府の諒解を得て
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