風に爆弾漁業が大仕掛になって横行し始めると、何よりも先にタマラないのは、云う迄もなく南鮮沿海五十万の普通漁民だ。
 しかも絶滅して行くのは鯖ばかりじゃない。全然爆薬の音を聞かされた事のない、ほかの魚群までもが、テンキリ一匹も岸に寄付かなくなるんだから事、重大だろう。

 ……ウン……それあ実際、不思議な現象なんだ。専門の漁師に聞いたって、この重大現象の理由はわからない。魚同志が沖で知らせ合うんだろう……ぐらいの説明で片附けている……いわば海洋の神秘作用と云ってもいい怪現象なんだが、コイツを科学的に研究してみると何でもない。頗《すこぶ》る簡単な理由なんだ。
 そもそも鯖とか、鰯《いわし》とかいう廻游魚類が、沿岸に寄って来る理由はタッタ一つ……その沿岸の水中一面に発生するプランクトンといって、寒冷紗《かんれいしゃ》の目にヤット引っかかる程度の原生虫、幼虫、緑草、珪草、虫藻《むしも》なぞいう微生物を喰いに来るのが目的なんだ。
 だからその寄って来る魚群を温柔《おとな》しく網で引いて取ればプランクトンはいつまでもいつまでも居残ってあとからあとから魚群を迎える事になる。発動機船の底曳網でも、かな
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