だ。年は若いが、生《なま》やさしい奴じゃないんだよ彼奴《あいつ》は……追々《おいおい》わかるがね……ウン。
ところでドウダイ。モウ一パイ……ウン話すから飲め。脊髄癆《カリエス》なんてヨタを飛ばした罰《ばち》だ。落ち付いてくれなくちゃ話が出来ん。
「酒を酌んで君に与う君自ら寛《ゆる》うせよ
人情の翻覆《はんぷく》波瀾に似たり」
だろう……お得意の詩吟はどうしたい。ハハハハ。お互いに水産講習所時代は面白かったナア……。
ウン面白かった。
しかし君は途中で法律畑へ転じたもんだから、吾輩がタッタ一人、頑張って水産界へ深入りした。……少々脱線するようだがここから話さないと筋道が通らないからね……しかも内地の近海漁業は二千五百年来発達し過ぎる位発達して、極度の人口過剰に陥っている。残っている仕事はお互い同志の漁場の争奪以外に無いというのが、維新後の水産界の状態だった。
然《しか》るにこれに反して朝鮮はどうだ。南鮮沿海の到る処が処女漁場で取巻かれているじゃないか。況んや露領|沿海州《えんかいしゅう》に於てをやだ。……これに進出しないでドウなるものか。日本内地三千万の人口過剰を如何《いかん
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