》の貿易商で満鉄の大株主|股旅由高《またたびよしたか》。それから最後の大物が、現民友会の幹事長、兼、弗箱《どるばこ》と呼ばれている釜松秀五郎《かままつひでごろう》、逓信次官、雲田融《くもたとおる》……と……まあザットこれ位にしておこう。どうだい。驚いたか。
 こいつ等の仕事の正体かね。無論、話すとも。話さなくてどうするもんか。君は吾輩唯一の竹馬の友だ。廃物同様の吾輩の話が、君等の仕事の参考になるのは、吾輩の無上の光栄とし、且つ欣快とするところだ。況《いわ》んや君の手によって、極度の乱脈に陥っている現下の銃砲火薬取締が廓清されると同時に、今云った連中にこの遺恨を報ずる事が出来たとすれば、吾輩の本懐、何をかこれに加えんだ。吾輩の一身なんかドウなったって構わない。
 ウンウン。実にお誂向《あつらいむ》きのところに来てくれたよ。註文したって無い大暴風雨《おおしけ》に取巻かれた一軒屋だ。聴いている者は飯爨《めした》きの林《りん》だけだ。ウン。あの若い朝鮮人だよ。彼奴《あいつ》なら聴いても差支えないどころか、吾輩の話のタッタ一人の証人なんだ。吾輩が死んでも、彼奴《あいつ》の報告を聞けば一目瞭然なん
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