ら追付いて来る足の速いのも……アノ三艘の片帆の中で、どれでもええから捕まえて、船頭と話して御覧なさい。四国|訛《なま》りじゃったら舟の中に、一|梱《こり》や二|梱《こり》の爆薬《ハッパ》は請合います。松魚《かつお》の荷に作ってあるかも知れませんが、あの乾物屋さんに宛てた送り状なら税関でも大ビラでしょう。荷物を跟《つ》けてみたら一ぺんにわかる事です。
 ……そのほかに爆薬《ハッパ》の出る処は、大連《たいれん》と上海《シャンハイ》ですが、上海のは大きい代りに滅多に出ません。おまけに英国か仏蘭西製《フランスでき》の上等品で、高価《たか》い上に使い勝手が違うのが疵《きず》です。大連のはやはり日本の桜印か松印ですが、これは大連から逆戻りして来る分量よりも、奥地へ這入る分量の方がヨッポド大きい。……どこへ落ち付くのか用が無いから探っても見ませんが、大連、営口《えいこう》から、満洲の奥地へ這入る爆薬《ハッパ》は大変なものです。その中の一箱か二箱がタマに抜け出して朝鮮へ来るので、ドウカすると内地のものより安い事があります。これは支那の兵隊か役人が盗んで来たものだそうですが、それだけに油断も出来ません。非道《ひど》い奴になると玉蜀黍《とうもろこし》の喰い殻に油を浸《した》した奴を、柳行李一パイ百円ぐらいで掴まされた事があるそうです。
 ……ところでイヨイヨ朝鮮内地に来ますと、ソンナ爆薬《ハッパ》の集まる処が、この釜山の外に二三箇所あります。
 ……慶北の九龍浦《きゅうりゅうほ》は何といっても釜山の次でしょう。もっとも釜山に来た爆薬《ハッパ》は、あのお屋敷の地下室に這入るだけですが、九龍浦の方はチット乱暴で、人里離れた海岸の砂の中に埋めて在るのです。私が今度、こんな目に会いましたのも、多分、この案内を嗅ぎ付けた事を知って、釜山の方へ手《ズキ》をまわしたのでしょう。
 ……それから九龍浦の次は浦項《ほこう》と江口《こうこう》で、ここは将来有力な爆薬《ハッパ》の根拠地《たまり》になる見込みがあります。この三個所は釜山と違って、巡査か警部補ぐらいが駐在している処ですから、丸め込むにしても大した手数はかからんでしょう。裁判所の連中でも、みんな美味《うま》い事をしておりますので、その地方地方での一番の有力者が皆、爆薬《ドン》の元締になっているのですから世話が焼けません。……そのほか四五月頃の巨文島《きょぶんとう》、五、六、七月頃の巨済島《きょさいとう》入佐村《いりさむら》、九、十、十一月の釜山、方魚津《ほうぎょしん》、甘浦《かんぽ》、九龍浦、浦項、元山《げんざん》方面へ行って御覧なさい。先生のように爆薬漁業《ドン》を不正漁業なんて云っている役人は一人も居りませんよ。ドン大明神様々というので、駐在巡査でも一身代《ひとしんだい》作っている者が居る位です。尋常に巾着《きんちゃく》網や、長瀬《ながせ》網を引いている奴は、馬鹿みたようなもんで……ヘエ……。
 ……そのほかに爆薬の出て来る処は無いか……と仰言《おっしゃ》るのですか。ヘエ。それあ在るという噂は確かに聞いておりますが、本当か虚構《うそ》かは私も保証出来ません。つまりそこ、ここの火薬庫の主任が、一生一代の大きなサバを読んで渡すことがあるそうで、古い話ですが大阪や、目黒の火薬庫の爆発はその帳尻を誤魔化《ごまか》すために遣ったものだとも云います。そのほか大勢で火薬庫を襲撃した事件も在ると申しますがドンナものでしょうか。新聞には出ていたそうですが……。
 ……そんな大物の捌《は》け口が、ドン方面ばっかりで無い事は保証出来ます。露西亜《ロシア》や、支那に売込んで行く様子も、この眼で見たんですからいつでも現場に御案内致しますが、しかし値段のところはちょっと見当が付きかねます。何でも長城《ちょうじょう》から哈爾賓《ハルピン》を越えると爆薬《ハッパ》の値段が二倍になる。露西亜境の黒龍江《こくりゅうこう》を渡ると四倍になるんだそうですが、これは拳銃《ピストル》でも何でも、禁制品《やかましいもの》はミンナ同じ事でしょう。売国行為だか何だか存じませんが、儲かる事は請合いで……エヘヘヘヘヘヘ……」
 黙って聞いていた吾輩は、この笑い声を聞くと同時に横ッ腹からゾーッとして来たよ。話の内容がアンマリ凄いのと、思い切りヒネクレた友吉|親仁《おやじ》の、平気な話ぶりに打たれたんだね。吾輩はその時にドッカリと椅子にヘタバリ込んだ。腕を組んで瞑目沈思したもんだ。気を落付けようとしたが武者振いが出て仕様がなかったもんだ。
 しかしその中《うち》に机《テーブル》を一つドカンと敲《たた》いて決心を据えると吾輩は、友吉親子を連れてコッソリと××を脱け出した。何よりも先に対岸の福岡県に馳け付けて旧友の佐々木知事を説伏《ときふ》せて、出来たばっかりの警
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