は諸君ばかりのように見受けたが、違っていたか知らん。序《ついで》にお尋ねするが一体、諸君は講演の第二日の報告を、何と書かれるつもりですか。参考のために承っておきたい。まさか公会堂で演説中に爆弾が破裂したとも書けまいし……困った問題ですなあ……これは……」
 と冷やかしてやった。ところがコイツが一等コタエたらしいね。イキナリ、
「……ケ……怪《け》しからん……」
 と来たもんだ。眼先の見えない唐変木《とうへんぼく》もあったもんだね。
「……そ……そんな事に就いては職務上、君等の干渉を受ける必要はない。君はただ訊問に答えておればいいのだ」
 と頭ごなしに引っ被《かぶ》せて来た。……ところが又、こいつを聞くと同時に、最前《さっき》から捻じれるだけ捻じれていた吾輩の神経がモウ一《ひ》と捻じりキリキリ決着のところまで捻じ上ってしまったから止むを得ない。モウこれまでだ。談判破裂だ……と思うと、フロックの腕を捲くって坐り直したもんだ。
「……ハハア……これは訊問ですか。面白い……訊問なら訊問で結構ですから、一つ正式の召喚状を出してもらいましょうかね。その上で……如何にも吾輩が最初から計画してやった仕事に相違ない……という事にして、洗い泄《ざら》い泥水を吐き出しましょうかね。要するに諸君の首が繋がりさえすれあ、ほかに文句はないでしょう……」
 と喰らわしてやったら、連中の顔色が一度にサッと変ったよ。
「……エヘン……吾輩は多分、終身懲役か死刑になるでしょう。君等のお誂《あつら》え向きに饒舌《しゃべ》ればね……ウッカリすると社会主義者の汚名を着せられるかも知れないが、ソレも面白いだろう。日本民族の腸《はらわた》が……特に朝鮮官吏の植民地根性が、ここまで腐り抜いている以上、吾輩がタッタ一人で、いくらジタバタしたって爆弾漁業の勦滅《そうめつ》は……」
「……黙り給えッ……司直に対して僭越だぞ……」
「何が僭越だ。令状を執行されない以上、官等《かんとう》は君等の上席じゃないか……」
 と開き直ってくれたが、その時に横合いから釜山署長が、慌てて割込んで来た。
「……そ……それじゃ丸で喧嘩だ。まあまあ……」
「……喧嘩でもいいじゃないか。こっちから売ったおぼえはないが、ドウセ友吉おやじの鬱憤晴らしだ」
「……そ……そんな事を云ったらアンタの不利になる……」
「……不利は最初から覚悟の前だ。出る
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