い着物を着た一人のお爺《じい》さんが出て来たが、この銀杏の葉の山を見ると、これも何故《なぜ》だか余程驚いた様子で――
「これは大変な事になった。一時《いっとき》も棄てておかれぬ」
 と云いながら直ぐ傍《そば》の石作りの門の中に這入ったが、やがて大きな袋と箒《ほうき》を持って来てすっかり銀杏の葉をその中へ掃《は》き込《こ》んで、どこかへ荷《かつ》いで行く様子である。これを見ていた姫はこの時はっと気が付いて、あの銀杏の葉に書いてある字を集めると、屹度《きっと》今までのお話しの続きがわかるのに違いないと思ったから、持って行かれては大変と急に声を立てて――
「お爺さん、一寸待って下さい」
 と呼び止めた。
 けれども青い眼の爺様は見向きもしないで唯《ただ》――
「何の用事だ」
 と云い棄ててずんずん先へ急いで行った。
 美留女姫はこれを見ると、慌ててお爺さんに追《お》い縋《すが》って――
「お爺さん。何卒《どうぞ》御願いですから待って下さい。そうしてその銀杏の葉に書いてある字を妾に読まして下さい」
 と叮嚀《ていねい》に頼んだ。けれどもお爺さんは矢張り不機嫌な声で――
「馬鹿な事を云うな。これ
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