の一人は静かな低い声で――
「濃紅姫のお支度が済みました。只今食堂で御待ちかねで御座います」
と申しました。ところが今一人はこれと反対に歯の根も合わぬような震え声で――
「美……美紅姫……が……お平常着《ふだんぎ》のままで……寝台《ねだい》の中で……コ、コ、氷のように……冷たくなって……」
と云う内に床の上に座り込んでワッとばかりに泣き崩れました。
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第三篇 宝蛇
十九 黄薔薇の籠
濃紅《こべに》姫は昨夜《ゆうべ》夜通し、少しも眠る事が出来ませんでした。この頃自分のまわりに起ったいろいろの不思議な事や、恐ろしい事を考えながら、夜を明かしましたが、併《しか》しずっと奥の部屋に寝ていたのですから、その夜の中《うち》にどんな事が兄様や妹の身の上に起こったかという事は、まるで知りませんでした。そうしていよいよ夜が明けますと、お附の者に扶《たす》けられて湯に這入って、すっかり身体《からだ》を浄《きよ》めてお化粧をしました。先ず髪毛《かみのけ》には香雲木という木に咲いた花の油を注ぎ、白百合の露で顔を洗いました。身には袖の広い裾の長い白絹の着物を着て、上に
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