と混雑しているところでしたから、気の付く者は一人もありませんでした。
ところが似せ紅矢の美留藻も青眼先生の顔を見ると、同じように慄《ふる》え上る程驚きました。そうしていよいよあの夢が嘘でない事が解かりましたが、それと一所に青眼先生の眼付が如何《いか》にも鋭くて、もしやあの夢の中であの銀杏《いちょう》の葉を容《い》れた袋の底を鋏《はさみ》で切り破った女が自分だという事が繃帯の上からわかりはしまいかと心の中《うち》で恐れた位でした。けれども又よく考えて見ると、青眼先生がもしあの美紅姫を一眼でも見ていれば、妾《わたし》より先に姫を疑う筈なのに平気でこの家に遣って来るところを見ると、青眼先生はこの家に初めて来たので、まだ美紅姫の顔を見た事がないのかもしれぬ。それとも初めからあの夢を見ないのであろうか。イヤイヤそんな筈はない。美紅姫があの夢を見たように、この青眼先生も、それからあの白髪の乞食小僧も屹度あの夢を見たに違いない。それでなければ理屈が合わなくなる。そしていよいよ見たか見ないかは、そのうちに美紅姫とこの青眼先生と出会わして見ればわかる事だ。とにかく今のところではこの青眼先生はまだ一度も
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