で馬鹿にされ、オモチャにされつくしたまま、ミジメに投げ出されている彼自身を、ヒイヤリとした芝生の上に発見して、泣く事も、笑う事も出来ない気持ちになってしまった。極度にタタキ付けられた選手のように、スッカリ混乱してしまったまま……両脚を投げ出して、後手《うしろで》を突いたまま……腹立たしい菊の花の芳香《におい》を、いつまでもいつまでも呼吸していた。

 しかし、そのうちに彼はヤットの思いで立ち上った。手も力もなく蹌踉《よろめ》きながら、はだかった胸を掻き合わせて、露深い草の上に落ちたマキリを探し当てて、懐中《ふところ》の鞘《さや》に納めながら、花壇の方向へスタスタと立ち去ろうとした……が……又もピッタリと立佇《たちど》まって振り返った。石柱の下に静まり返っている白菊の鉢を見返りながら腕を組んで考え込んだ。混乱した頭を鎮《しず》めよう鎮めようと努力した。
 ……俺はここへ何をしに来たんだ。……そうして……このまま帰ったら俺は一体どうなるんか……。
 やがて彼は闇の中でガックリとうなずいた。
 忽ちツカツカと石柱の根元に歩み寄って、盛り上った白菊の鉢に両手をかけた。
「……エエ糞《くそ》……
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