黄絹のカアテンを、腫れ物に触るようにして潜《もぐ》り出た。一足飛びに大|卓子《テーブル》をめぐって部屋の外へ飛び出した。
 ハヤテのように石の階段を馳け降りて、外廊下から芝生の上に飛び出した。と、思った瞬間に、何かしら人間らしいものから片足を抄《すく》い上げられたと思うと、モンドリ打って芝生の上にタタキ付けられた。
 ……息が詰まったかと思う腰の痛さを、頭の中心まで泌《し》み渡らせながら彼は、咄嗟《とっさ》に半身を起してマキリを構えた。眼の前、一|間《けん》ばかり向うの闇の中に跼《うずく》まっている白い物体に対《むか》って身構えた。
 ……破滅……???……。
 と心の中で魘えながら……。
 しかし白いものは動かなかった。依然として外廊下の石柱の根元に跼《かが》まっているばかりでなく、その白い、フックリした固まりの各部分が、すこしずつユラユラと揺れ合っているのが、星明りに透かして見えるようである。それに連れて何ともいえない品のいい菊の花の芳香《におい》がスッキリと闇を透して、彼の周囲に慕い寄って来た。
 彼はマキリを取落した。……三度《みたび》、呆然《ぼうぜん》となった。
 何から何ま
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