方へ参りますそうで……ヘエ。手前共も怖《こ》おう御座んしたが、思い切ってその荒地の中へ立ち入りまして、スッカリ見て参じました。序《ついで》に御参考までもと存じまして、方丈の跡らしい処に咲いておりましたこの花を摘《つ》んで参いりましたんで……何しろ珍らしい、お話の種と思いましたから……ヘエ」
 貫七爺は、そう云って又眼玉を凹ました。扇を開いて汗掻いた頭を上の方から煽ぎ初めた。
 私はイクラカ薄気味わるく、その白くれない[#「くれない」に傍点]の花を抓《つま》み上げてみた。
「ふうむ。俺の知っている奴が九州大学の農学部に居るからこの紅《あか》と白の花を両方とも送ってやろう。おんなじ花が植えた処によって違った色に咲くような事実が在り得るかどうか聞いてやろう。怪談なんてものは、ちょとしたネタから起るもんだからね」
「ヘエ。それが宜しゅうがしょう。案外掘ってみたら切支丹頃の珍品が出て来るかも……」
「馬鹿。商売気を出すなよ」
「ヘヘヘ。千両箱なんぞが三つか四ツ……」
「大概にしろ。そんな事あドウでもいい。それよりも問題はこの刀身《かたな》だ」
 私は、今一度、古鞘から裸刀身《はだかみ》を引出した
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