て、慎重に研究しては直し、直しては研究しつつ、一生を終る。そのあとを第三代のCが引き受けて、やはり同じ仕事を繰り返しつつ、その彫刻の価値を益々向上させて死ぬ。一方に、BもCも手を入れる気にならぬような、つまらないものは、そのままに残って、第四代のDに渡る。
 こうして代を重ねて行くうちに、第一代のAが作った数千の彫刻の中で、芸術的価値の高いものは益々手を入れられてよくなるし、手を入れる張合いのないようなものは、いつまでも放ったらかされて、忘れられてしまう。遂には廃棄せられて、毀《こわ》れてしまう。すなわち現世に存在する彫刻の数が減って行くのであるが、そんな事は、些《すこ》しも気にかけられずに益々よいものを良くして悪いものを棄てて行こうとする。最も芸術的に高潮した作品が一つでも残れば……という考えで進んで行く。
 これは「減って行く進化の形式」であるが、これと正反対の「殖えて行く進化の形式」を執《と》る世界一般の芸術も、つまるところ同じ所に行きつくのであるまいか……只、その途中に於て、時間的、空間的に恐ろしく大きな無駄をする事は明らかな道理で、能のように減って行く式の進化の方法を執る方が
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