に両の腕を絡ませると、興奮のために、ふるえる唇を、私の耳に近づけた。喘《あえ》ぐように囁やきはじめた。
「……あたしね……聞いてちょうだい……ずっと前、長崎で西洋人の小間使いになっているうちに、ソッと毒薬の小瓶を盗んでおいたのよ。……可愛らしい瀬戸物の真黒な小瓶よ。それはね……そのラマンさんという和蘭《オランダ》人のお医者の話によると、ジキタリスという草を、何とかいう六《むつ》ヶしい名前の石と一緒に煮詰めた昔から在る毒薬で、支那人が大切にする『鴆《ちん》の羽根』と『猫の頭』と『虎の肝臓《きも》』と『狼の涎《よだれ》』という四つの毒薬の中《うち》で『鴆の羽根』という白い粉と、おんなじものになっているんですってよ。……それをアブサントを台にして作ったコクテールの中に、竹の耳掻きで一パイか二ハイずつ混ぜて服《の》ませると、その人間は間もなく中毒にかかって、いくらでもいくらでも飲みたくなるんですって……アブサントのおかげで青臭いにおいがスッカリ消されている上に、どことなくホロ苦くてトテモ美味《おい》しいんですって……だけど一度に沢山飲ませると、すぐに眼や鼻から血を噴き出しながらブッたおれて、十
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