…財産も譲らないって云っててよ……」
「当り前だ……」
と私は面倒臭そうに答えた。少々睡くなりかけたところを邪魔されたので……。
「……死んだってくれやしないよ……」
「そうじゃないわよ。あなたは正直で、頭がよくて……」
「馬鹿にするな……」
「いいえ。まったくよ……俺よりも仕事が冴《さ》えている上に、今の財産は愛太郎のお蔭で出来たようなもんだから、跡を継がせるのは当り前だって……」
「……ウーン……そんなら早くくれりゃあいいのに……」
「……だけどね……まだ頭の固まらないうちに株だの、お金だのを持たせると慾がさして、株だのお米だのの上り下りがわからなくなるから、まだなかなか譲れない。俺も昔はかなり頭がよかったんだけど、あまり早くから慾にかかったせいかして、肝玉《きもたま》が小さくなって相場が当らなくなったんだ。それを助けてくれたのが貴方なんですって……」
「それあ本当だ。叔父の正直なところだろうよ」
「……でしょう。だから叔父さんは、あなたに感謝しててよ。あなたを電話の神様だって云っててよ」
「おだてちゃいけない……」
と私は投げ出すように云った。浴槽のふちに頭を載せて、手足を海
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