イ……わかったよわかったよ。オーイオーイオーイオーイ……」
 といくら呼んでも頑強にベルを鳴らしていたが、やがてピタリと震動が止むと、
「オホホホホホホホホ」
 という笑い声が、真っ先きに聞えた。
「……あなた愛太郎さん。御無沙汰しました。……叔父さんもう帰って?……」
「エエ……一時間ばかり前に……」
「あなた声が違うようね。お風邪でも召したの……」
「……寝ていたんです……」
「まあ……お昼寝……この寒いのに……」
「……エエ……まあそうです……」
「あたしあなたにお話したい事があるのよ……今から伺ってもいい?……」
「エエ……よござんす……キタナイ処ですよ」
「ええ。知ってますわ。誰も居ないでしょう?」
「ええ……僕一人です。しかし……何の用ですか……」
「オホホホホホホホホホ」
 私は表の扉《と》の閂《かんぬき》を外すと又二階に上って、あたたかい夜具にもぐり込んだ。しかし、不思議とこの時に限って、彼女に対する何等の期待も計画も浮ばなかった。ただ、頭の底にコビリ付いている残りの睡たさを貪りながら、いつの間にかグッスリと眠っているらしかったが、そのうちに小さな咳払いを耳にしてフッと
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