リさせられたものであった。あんまり五月蠅《うるさい》ので或るとき、
「……叔父さん。いくら僕が電話好きでもこれじゃトテモ遣り切れませんよ。済みませんが彼家《あすこ》にも電話を引いて下さいナ」
と哀願してみたら叔父は怫然《ふつぜん》として、
「馬鹿野郎……あの家《うち》に電話を取って堪《たま》るか……折角ノンビリと気保養している時間を、外から勝手に掻き廻わされるじゃないか」
とか何とか一ペンに跳ね付けられてしまったので、いよいよガッカリ、グンニャリした事もあった。
ところが不思議なことに、それから二た月ばかりも経つと、叔父は前よりも一層盛んに待合入りを始めるようになった。店の仕事も私に代理させる事が多くなった。おまけに今まで一滴も口にしなかった酒を飲むようになって、時々は伊奈子が作ったというカクテールの瓶を店まで持ち込んで来る事すらあるようになった。無論、それ等のすべては皆、彼女の手管《てくだ》に違いなかったので、彼女はこうして叔父を翻弄しつつ、その魂と肉体を一分刻みに……見る見るうちに亡ぼして行こうと試みている事がわかり切っていた。叔父も亦、それを充分に承知していながら、彼女のた
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