キのない無垢の処女らしい態度にかわって、つつましやかに眼を伏せているのであった。
しかし何も知らない叔父は、如何にも二人の叔父らしい気取った身ぶりで、買い立てらしいパナマ帽を大切そうに頭に載せながら伊奈子を連れて出て行った。その自動車が店の前を辷《すべ》り出すのを見送りながら、私は思わず薄笑いをした。
……阿婆摺《あばず》れめ……来るならこい……。
と思って……。けれども伊奈子はそれっきり、私にチョッカイを出さなかった。
私は又、平和に二階で寝ころんだ。
それから後《のち》、伊奈子が叔父を操った手腕は実に眼ざましいものがあった。
伊奈子はまず叔父に家を買わせた。それも普通の家ではないので、F市外の公園の入口に在る檜御殿《ひのきごてん》と呼ばれた××教の教会堂が、先年の不敬事件に関する信者の大検挙以来、空屋《あきや》同然になっていたのを自分の名前で買い取らせて、見事な住宅の形に手を入れさせたもので、そこに素敵な自動車や、大勢の女中を雇い込んで女王のように奉仕させた。同時に叔父の待合入りをピッタリと差し止めたので、私はその当時、八方の待合からかかって来る電話を聞かされてウンザ
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