れてどこかへ夜逃げをして終《しま》ったというのである。親父の結核性の喘息が非道《ひど》くなったのもその叔父のせいだし、親類や友達に見限られて、コンナ貧民窟に潜り込んで、死ぬのを待つばかりの哀れな身の上になったのもその叔父のお蔭だという。その中にどうにかこうにか私が育って、やっと十三になったと思うと、惜しい小学校を中途で止して、広告屋の旗担《はたかつ》ぎ、葬式の花持ち、活動のビラ配り、活版所の手伝いなぞと次から次へ転々して、親を養わなければならなくなったのもその叔父のせいだ……だから俺が生きているうちにその児島良平という叔父を見付け出したら、すぐに鉄鎚で頭をタタキ潰さなくちゃいけないぞ。良平という奴は生れながらに血も涙もない奴で、誰の家《うち》でも手当り次第に破滅させて、美味《うま》い汁を吸うのが専門の悪魔なのだ。生かしておけばおく程、国家社会のためにならない人間だからナ。彼奴《あいつ》を殺せばどれくらい人助けになるか知れない……イイカ。キット遣《や》っつけるんだぞ。罪はみんな俺が引き受けてやるからナ……それが俺の人助けの仕納《しおさ》めだ……なぞと親父は毎日のように云って聞かせたので、
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