する私の予感は夏冬の寒暖の変化や天候の工合なぞによって、余計に来る時と来ない時があった。電線の調子の良《よ》し悪《あ》しや、先方の読み方の上手下手に依っても違ったが、それでもこの予感のおかげで叔父の身代はメキメキと殖えて行った。何でも二三年の間に一千万円近くに達したとの事だが、叔父はそれを全部、大阪中の島の浜村銀行に預けているらしかった……というのは或る時、同銀行の支配人で井田という大阪弁丸出しの巨漢《おおおとこ》がこの事務所を訪れて、事務員や私にまでピョコピョコ頭を下げまわったのに対して、赤ん坊位にしか見えない叔父が反《そ》り身になりながら、こんな事を云ったので察しられる。
「僕は何でも相場式に行かなくちゃ気が済まない性分でね。儲けた金は方々の銀行にチョクチョク入れて、頭かくして尻かくさず式の安全第一を計《はか》るようなケチな真似はしないよ。大阪一流の浜村銀行が潰れた時に、日本中で店を閉めたのはこの薄キタナイ※[#「ユ−一」、屋号を示す記号、、285−18]善《かねぜん》の事務所一軒だけという事がわかれば、相場師としてこれ以上の名誉はないじゃないか。ハッハッハッハッハッ」
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