って、傲然《ごうぜん》と私を睨み下しているのに気が付いて、又もビックリさせられた。しかし怖い事はちっともなかった。そうしてコンナ楽書きを勝手にしていいのか知らん……なぞと考えながら、壁に描かれている変テコな絵や文字を、一つ一つに見まわしていた。
その間に叔父は、クルリと私に背中を向けて、サッサと階段を降りて行った。……と思うと、もう麦稈帽《むぎわらぼう》を頭に乗っけて、夕日のカンカン照る往来に出て行った。私はその眩《まぶ》しいうしろ姿を見送りながら、
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……やっぱし叔父は悪魔だったのかな。あの頭の真ン中のツルツル光っている処を、鉄鎚でコツンとやっても構わないのかナ……。
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なぞと、ボンヤリ考えていた。
叔父は毎朝八時半頃から店に出て来た。そうして肥った身体《からだ》を自分の椅子に詰め込んで、新聞を読んだり、手紙を書いたりしたあとは、入れ代り立ち代り電話をかけて来るお客や、店に押しかけてくる椋鳥《むくどり》連に向って、トテモ景気のいい……その癖、子供の私が聞いても冷汗の出るような嘘八百を並べては高笑いをするのが仕事の大部分であった。
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