が、多分親類たちが勝手に処分したものらしく、正体不明の犯人も、いまだに正体不明のままになっている……。
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というようなかなりモノスゴイ筋であった。叔父も一生懸命に力瘤《ちからこぶ》を入れて喋舌《しゃべ》っているようであったが、しかし、私はちっとも傾聴していなかった。それはシナリオや小説を飽きる程読んでいる私の耳には、頗《すこぶ》るまずい、取って付けたような話としか響かなかったので、強いて想像を逞しくすれば……その美しい第二夫人というのは、私の実の母親の事ではないか。そうして正体不明の情夫の正体は取りも直さず叔父自身ではないか。叔父はそうした旧悪に対する一種の自白心理を利用して私たちを誤魔化《ごまか》そうと試みているので、友丸伊奈子と私とはその実、タネ違いの兄妹《きょうだい》とも、従兄妹《いとこ》同志ともつかぬ異様な間柄になっているのではないか……と疑えば疑い得る筋がないでもない位の事であった。
しかしそのうちにフト気が付いて、叔父の斜うしろに坐っている伊奈子の様子を見ると、こうした私の忌《い》まわしい疑いも無用である事がわかった。彼女は如何にもつつましやかな態度で、さしむきながら聞いているにはいたが、しかし内心は飽き飽きしているらしく、叔父の話が自分達|母子《おやこ》と全く無関係である事を、特に私にだけコッソリと知らせたがっている気持ちが、その溜め息のし工合いや、白い絹ハンカチの弄《もてあそ》びようだけでもアリアリと察しられたので、私は何故かしらホッと安心させられたように思った。そうしてあとには大袈裟《おおげさ》な身ぶりを入れて喋舌っている叔父の、滑稽なくらい真剣な表情だけが印象に残ってしまった。
「……だから……おれは近いうちに、伊奈子と二人で家を借りて住むつもりだ。今までみたいに待合《まちあい》にばかり泊っていちゃ、伊奈子のためにならないからナ。ハハハハハ」
叔父はお終《しま》いに、こう云って笑いながら壁に掛けたパナマ帽子の方へ手を伸ばした。
すると……その瞬間に、流石《さすが》の私もハッとさせられた事が起った。それは今の今までつつましやかにうつむいていた伊奈子が大きな眼で上眼《うわめ》づかいに私を見て、頬をポッと染めながらニッコリと笑って見せたからであった。しかも、その眼つきや口元の表情が、ほんのチョットの間《ま》ではあったが、二階の美人画の表情以上に熱烈深刻な意味で、
「あたしは、あなたが大好きよ……」
と云ったように思えたので、私は思わず釣り込まれながらニッコリと微笑を返してしまったのであった。……が……しかし……そのあとで眼を閉じて、ゴックリと冷たい唾液《つば》を呑み込むと、その刹那《せつな》に彼女のすべてが電光のように私の頭の中へ閃めき込んだので、私は今一度ギョッとさせられない訳に行かなかった。
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……驚いた……驚いた……この女はウッカリすると俺よりも年上だ。のみならず処女でもなければ令嬢でもない……叔父の妾《めかけ》になりに来た女なのだ。……しかも、今まで読んだ小説の中にも滅多に出て来た事のないタイプの妖婦で、叔父から俺の事を聞くとすぐに、電話をかけて笑ってみたものらしい……チョット俺を面喰らわして、丸め込むキッカケを作っておこうぐらいの考えで……大変な阿魔《あま》ッチョだぞ。こいつは……。
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私はこう思いながら頭を上げた。昨日から持ち続けていた興味が見る見る醒めて行くのを感じつつ、改めて伊奈子を見たが、その時はもう彼女は鵜《う》の毛で突いた程もスキのない無垢の処女らしい態度にかわって、つつましやかに眼を伏せているのであった。
しかし何も知らない叔父は、如何にも二人の叔父らしい気取った身ぶりで、買い立てらしいパナマ帽を大切そうに頭に載せながら伊奈子を連れて出て行った。その自動車が店の前を辷《すべ》り出すのを見送りながら、私は思わず薄笑いをした。
……阿婆摺《あばず》れめ……来るならこい……。
と思って……。けれども伊奈子はそれっきり、私にチョッカイを出さなかった。
私は又、平和に二階で寝ころんだ。
それから後《のち》、伊奈子が叔父を操った手腕は実に眼ざましいものがあった。
伊奈子はまず叔父に家を買わせた。それも普通の家ではないので、F市外の公園の入口に在る檜御殿《ひのきごてん》と呼ばれた××教の教会堂が、先年の不敬事件に関する信者の大検挙以来、空屋《あきや》同然になっていたのを自分の名前で買い取らせて、見事な住宅の形に手を入れさせたもので、そこに素敵な自動車や、大勢の女中を雇い込んで女王のように奉仕させた。同時に叔父の待合入りをピッタリと差し止めたので、私はその当時、八方の待合からかかって来る電話を聞かされてウンザ
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