二人の男と荷車曳き
夢野久作
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)弾丸《たま》
−−
昔ある処に力の強い、何でも上手の男が二人おりました。二人共知らぬ者がない位名高かったのですから、どちらがえらいかわかりませんでした。
ある日二人は往来で出会うとお互いに自慢をはじめましたが、ただ口で言っただけではわからないので、とうとう決闘をする事になりました。
二人はピストルを持って来て撃ち合いをはじめましたが、どこを打っても弾丸《たま》が途中で打《ぶ》つかってどっちにも当りません。
次には剣《つるぎ》を持って来て斬り合いましたが、打ち合うたんびに剣が折れて斬り合うことが出来ません。
二人はとうとう取り組み合いをはじめましたが、どちらも力が同じように強いので、取り組んだまま動く事が出来ません。そのうちに日は暮れるしおなかはすくし、二人とも疲れてイヤになって来ましたが、負けるのが口惜《くや》しいからやめる訳にゆきません。とうとう二人共閉口して一時に、
「助けてくれイ」
と叫びました。ちょうど空車を曳《ひ》いて傍を通りかかった男は、ビックリして車をとめて、
「どうしたのですか」
と尋ねました。
二人がはじめからの事を話しますと、荷車曳きはため息をして、
「それは大変です。ではこうしたらどうです。私がお弁当を上げますからそれを二人で食べて、それから私についてお出でなさい。そうしたらうまく勝負をつけて上げます」
二人は喜んでお弁当をたべて、荷車曳きについて行きました。
荷車曳きは二人を連れて市場に行くと、いつもの倍もその上に荷物を積んで、二人に言いました。
「この車のあとを押して下さい。先に疲れた方が負けです。私が審判官になります」
二人は一所懸命に押しました。それから何里も行くうちに二人はもう死にそうにつかれましたが、それでもやっとこさ向うへ着きました。
荷車曳きはいつもの倍もある荷物を売って、お金を沢山に儲けました。
荷車曳きは二人にお礼を言って、行こうとしました。二人は驚いてひきとめて、
「一体どちらが勝ったのだ」
と尋ねました。
「どちらも負け勝ちなしです。負け勝ちがつけたいならば、明日も一ぺん今日の処へいらっしゃい。そうしても一ぺん車のあとを押して下さい」
「馬鹿にするな」
と二人は怒りました。しかし荷車曳きは平気で笑
次へ
全2ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング