なっちゃった。つまり僕はあの女《ひと》の云うなりになっていればいいんだね」
「ええ。そうよ。こっちがあの女《ひと》を疑っているソブリなんかチットも見せないようにしてね。そうしていらっしゃる中《うち》にはヒョットしたらあの女《ひと》だって、お兄様をお好きにならないとも限らないわ」
「タヨリないなあ。お前の云う事は……モット確《しっか》りした事を云っとくれよ」
「だって将来《さき》の事なんかわかんないんですもの……貴方みたいに正直に、何もかも真《ま》に受けて、青くなったり、赤くなったり……」
「オイオイオイ。電話で顔色がわかるかい」
「アラッ。バレちゃったのね。トリックが……」
「トリック。何だいトリックって……」
「ホホホ。何でもないのよ。あたし今夜あなたのアトから直ぐに家《うち》を閉めて出かけたのよ。だってコンナ時にはトテモたった一人でお留守番なんか出来ないんですもの。家《うち》の中には貴方の原稿以外に貴重品なんか一つも無いでしょう。……それからね。序《ついで》に途中で寄道をしてロッキー・レコードへ寄って契約して来ちゃったわ。一個月二百円で……」
「ゲエッ。ほんとかい……それあ……」

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