さま……あの女《ひと》の云う事、信用していらっしゃるの……」
「あの女《ひと》って誰だい」
「誰って彼女《あのひと》以外に誰も居なかったじゃないの……」
「呉羽さんが僕と結婚してもいいって話かい」
「ええ。あれは絶対に信用なすっちゃ駄目よ」
「エッ……どうして……」
「どうしてったって呉羽さんは、お兄さんと結婚してもいいって事をハッキリ仰言りやしなかったわ」
「……………」
 兆策は額を押えて椅子に沈み込んだ。
「フ――ム。そうかなあ……」
「そうよ。彼女《あのひと》の話は陰影がトテモ深いんですから、用心して聞かなくちゃ駄目よ。たといソンナ事をハッキリ仰言ったにしても、それあ嘘よ……キット……」
「どうしてわかるんだい。そんな事が……お前に……」
「女の直感[#底本では「直観」と誤記]よ。……第三者の眼よ……」
「それだけかい……」
「それだけでも十分じゃないの。あたし……あの呉羽って女《ひと》……キット深刻な変態心理の持主だと思うわ」
「直感でかい」
「いいえ。色んな事からそう思えるのよ。第一あの女《ひと》は貴方がホントに好きなんじゃない。妾が好きなのよ……それも死ぬほど……」
「ナ
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