……貴女は名探偵です……」
 呉羽も調子を合わせるようにヒッソリとうなずいた。大きな眼をパチパチさせた。
「……ですから……貴方にお願いするのです。今から笠支配人の様子を探って下さい。そうしてイヨイヨ生蕃小僧の本人に違いないという事がわかったら……」
「……コ……殺してしまいます」
 江馬兆策の両眼が義眼《いれめ》のように物凄くギラギラと光った。
「イケマセン」
 呉羽は真剣に手を振った。
「……ナ……ナゼ……何故ですか」
「復讐の手段は妾に任せて下さい。両親の仇《かたき》……轟の仇です……」
「……………」
「それでね貴方にその脅迫状の束を全部《みんな》さし上げます。それをイヨイヨとなったら笠に突付けて云って御覧なさい。お前はお前の書いた文句を忘れてやしまい。呉羽さんを脅迫した言葉も忘れてやしないだろうって……ね……」
「……………」
「それからね。貴方の活躍の期限を来月の十日までに切っておきます。来月の十日になっても笠に泥を吐かせる事が出来なかったら一先ず帰っていらっしゃい。よござんすか。費用は脅迫状の束と一緒に、明日《あす》の午後に差上げます」
「イヤ。費用なんか一文も要りません
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