ですから……」
「でも……でも……まだ疑問の余地が……」
「ええええ。まだまだ沢山に在るのよ。モットモット大きな、深い疑問が残っているのを誰も気付かずにいるのよ。轟さんの心臓にあのナイフが突刺さったホントの理由が、わかる話よ」
「エエッ。それじゃホントの犯人が……別に……」
「居るか居ないかは貴方のお考えに任せるわ。そこがこの脚本のヤマになるところよ。いい事……その長い脅迫状の文句はこうなのです。その脅迫状はあたし自分の部屋の鏡台の秘密の曳出《ひきだし》にチャント仕舞っているのですから、あとからお眼にかければわかるわ……轟九蔵と甘木三枝は、戸籍面で見ると親子関係になっていない。女優の天川呉羽は轟九蔵の養女でも何でもないのだから、つまるところ轟九蔵は甘木三枝の財産を横領している事になる。それのみか、轟九蔵と天川呉羽とは事実上の夫婦関係になっている事を、俺は最近になって探り出しているのだ。その上にその呉羽こと三枝という女は、ズット以前から劇作家江馬兆策と関係している……」
「ワッ……ト飛んでもない……アッツ……」
 江馬兆策は突然真赤になって手を振ったトタンに、たった今来たウイスキー・ソー
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