ぎ》には持って来いの処だったのですが、しかし、何よりもタッタ一つ、一番恐ろしい番犬がこの柳仙の家をガッチリと護衛《まも》っている事が、最初から判明《わか》っているのでした。……その番犬というのは見付の町で、土木の請負をやっている等々力親分の一家でした。
 その頃見付の宿で、等々力雷九郎親分の後を嗣《つ》いでいたのが等々力久蔵という、生蕃小僧と同じ位の年頃の若い親分でした。もっとも大正十年頃の事ですから、昔ほどの勢力はなかったのでしょう。そこいらの田舎銀行や、大百姓の用心棒ぐらいの仕事しかなかったのでしょう。その上に、その若親分の久蔵というのも、昔とは違った帝大出の法学士で、弁護士の免状まで持っていたインテリだったそうですが、乾分《こぶん》に押立てられてイヤイヤながら渡世人の座布団に坐り、新婚早々の若い、美しい奥さんと二人で、街道筋を見渡していたものですが、この若親分の久蔵というのが、十手捕縄を預っていた雷九郎親分の血を引いたものでしょう。親分生活は嫌いながらにあの辺切っての睨み上手の、捕物上手で、云ってみれば田舎のシャロック・ホルムズといったような名探偵肌の人だったのでしょう。すこし手
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