てから着かえはしないのですか……普通の女のように……」
「ハハハハ。ナカナカ君も細かいのう。探偵小説の愛読者だけに妙なところへ気が付くのう。そこまでは未だ調べが届いておらん」
「残念ですなあ。そこが一番カンジン、カナメのところかも知れないのに……」
「まあ話の先を聞き給え。それから十時頃に、その呉羽嬢が浴室を出ると、女中が主人の轟九蔵を起しに行くが、コイツが又一通りならぬ朝寝坊でナカナカ起きない。それをヤット起して湯に入れると間もなく朝飯《あさはん》になる。それから十二時か一時頃になって支配人の笠圭之介が遣って来て三人寄って紅茶か、ホット・レモンを飲みながら業務上の打合わせをする。時には三人で大議論をオッ初める事もあるが大抵のことは呉羽嬢の主張が通るらしい」
「その支配人の笠という男はドンナ人間ですか」
「僕に負けんくらい巨大《おおき》な赭顔《あからがお》の、脂《あぶら》の乗り切った精力的な男だ。コイツも独身という話じゃが」
「何だかヤヤコシイようですね。呉服橋劇場の首脳部の三人が揃いも揃って独身となると……」
「ところがこの笠という男は有名な遊び屋でね。それも頗《すこぶ》る低級に属し
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