羽嬢、本名|甘木《あまき》三枝(一九)本籍地静岡県|磐田[#底本では「盤田」と誤記]《いわた》郡|見付《みつけ》町××××番地)を連れて各地を遍歴したる後《のち》上京し、株式に手を出して忽ち巨万の富を作った。その中《うち》に三枝嬢が成長し、人も知る如き美人となったのを手中の珠と慈《いつく》しみ、同嬢のために小規模ながら大森に現在の豪華な住宅を建ててやって同居し、毎日のように同嬢を同伴して各種の興行物を見に行く中《うち》に、同氏自身、興行に興味を覚え、昭和五年の春、呉服橋劇場が不況に祟られて倒産したものを、同劇場の支配人|笠圭之介《りゅうけいのすけ》氏に勧められるまにまに買収し、甘木三枝嬢こと女優天川呉羽をスターとする一座を組織し、且、新進探偵小説家江馬兆策氏を自宅の片隅に住まわせて、同氏に同劇場の脚本を一任し、巴里《パリー》グラン・ギニョール座に傚《なら》い探偵趣味、怪奇趣味の芝居で当てるつもりであったところ、当初の三四回の成功を見たのみで爾後一向に振わず、一部少数ファンの支持を除き、一般人士には早くも飽かれてしまったらしい。そのために財産の大部分を喪い四苦八苦の状態に陥ったまま今回の
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