、自分が男だか、女だかわからない位、声から姿までも……心までも女らしくなってしまったので御座います。只今、こう申しております中《うち》にも皆様はまだ私を一人前の女と信じ切っておいでになる方が、かなり大勢おいでになる事で御座いましょう。ホホホホホホハハハハハハハハハ……。
 ……ところがツイこの頃になりまして、そうした女性的な習慣に埋もれておりました私の心が、いつの間にか男性として眼醒《めざ》め初めたので御座います。そうして今晩のお芝居で、お眼にかけました通りに、あの轟九蔵の執拗《しつこ》い変態的な[#底本では「変態的の」と誤記]愛がたまらなく厭《いや》になりまして、あの純真なソプラノ歌手の美鳥さんと一所になりたいばっかりに、止むに止まれない切ない気持から、あのような無鉄砲な事を仕出かしまして、満都の皆様方に、お詫の致しようもないお心づかいを、おさせ申したので御座います。そうしてその上にも因果な事には、女としての私に恋|焦《こが》れておりましたあの兇悪無残の殺人鬼、生蕃小僧が、女性としての私を恋する余りに、それこそ生命《いのち》がけで私の罪悪をカバーしてくれましたお蔭で、やっと今日まで娑
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