方や聞こえ方が、普通の人間と丸で違ってしもうた。悪魔のする事が好きで好きで叶《かな》わん性格になってしもうた。ハハハ。怖がらんでもええぞ美鳥……お前たち兄妹《きょうだい》に対しては俺はチットモ悪魔じゃない。平凡な平凡な涙もろい人間だ……その平凡な平凡な人間に時々立帰ってホッと一息したいために、お前達を養っているのだ……イヤ詰まらん事を云うた。それじゃ又、晩に来なさい。夕飯の準備が出来たら女中を迎えに遣るから……」
「おじさま……さようなら……」
「先生……さようなら……」
「ああ。さようなら……」
 二人が退場すると轟氏|呼鈴《よびりん》を押し、這入って来た女中に三枝を呼んで来るように命じ、そのまま寝椅子に長くなる。
 大きな桃割《ももわれ》。真赤な振袖。金糸ずくめの帯を立矢《たてや》の字に結んだ呉羽がイソイソと登場する。
「あら……お父様。お呼びになったの」
「……うむ。こっちへお出で……」
「……嬉しい。又、どこかのお芝居へ連れてって下さるの」
 と呉羽嬢が甘たれかかるのを抱きあげて身を起した轟氏は立上って、入口の扉《ドア》に鍵を卸《おろ》し、窓のカアテンを閉《とざ》して異様に笑い
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