晴れ渡り
 かがやかに雲流る 大空よああ大空よ」
「うらわかき吾が思い はてしなく澄み渡り
 すずろかに風流る 大空よああ大空よ」
「ウム。なかなか立派な声になった。学校というものは有難いものだ」
 兄妹《きょうだい》同時に頭を下げる。
「ありがとう御座います」
「ああ。御苦労だった、お蔭でいい心持になった……ウム。それからなあ。きょうは久し振りに娘の三枝と一所に夕食を喰べるのじゃから、お前たちも来て一所に喰べてくれ」
 二人顔を見合わせて喜ぶ。
「ハハハ。嬉しいか」
「ありがとう御座います」
「おじさま。ありがと」
「うむ。なかなか言葉が上手になったな。もう日本人と変らんわい。ハハハ。どうだい。お前たちは日本と朝鮮とドッチが好きかね」
「僕日本の方が好きです」
「何故日本が好きかね」
「朝鮮には先生みたいに外国人を可愛がる人が居りません」
「ハハハ。外国人はよかったな。美鳥はどうだい」
「あたし豆満江《とまんこう》がもう一ペン見とう御座いますわ」
「うむうむ。その気持はわかるよ。あの時分はお前達と雪の中で、ずいぶん苦労したからなあ」
「おじ様が毎日|鮭《さけ》を捕えて来て、あたし達に
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