も何となく呉羽さんに一パイ喰わされて、睨めっこをさせられているような気がし初めたんだね。そこでドッチからともなく二人が寄り合って、ザックバランに膝を突き合わせて話合ってみると、ドウモ呉羽さんの二人に云った言葉尻が怪しい。これはこの興行の邪魔にならないように、吾々二人を東京から遠ざける計略じゃなかったのか……呉羽さんは、こうして吾々二人が承知しそうにない無鉄砲な興行を、自分一人でやっつける了簡《りょうけん》じゃないのか……という事になって来ると、まさかとは思いながら二人とも急に不安になって来たもんだから、大急ぎで勝手な汽車に乗って帰ることに話をきめたもんだ」
「ずいぶん鈍感ねえ。お二人とも……」
「そう云うなよ。呉羽さんの腕が凄いんだよ」
「それからドウなすって……」
「ところがサテ……帰って来てみると俳優たちは一人残らず口止めをされていると見えて、芝居の筋なんか一口も洩らさない。それから考えて楽屋裏の大道具を覗いてみると、まだハッキリはわからないが、ドウモ僕の註文した場面とは違うような道具が出て来るらしいので、イヨイヨ心配になって来た。だから藪蛇かも知れないとは思ったがツイ今しがたの事
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