たらしいんだ」
「まあ……どうして……」
「どうしてって馬鹿な話さ。笠支配人は何でもないんだよ。僕があの脚本を書上げると直ぐに、彼奴《あいつ》に取りかかってやったんだ。犯人は貴様だろう……って威嚇《おどか》し付けてやったら、一ペンに青くなっちゃってね。色々弁解しやがるんだ。下らないアリバイなんか出しやがってね……そのうちにドウモ此奴《こいつ》は生蕃小僧なんて恐れられるようなスゴイ人物じゃないらしいって感じがして来たんだ。しかし、それでも猫を冠っているんじゃないかと思って、色々変相して附け狙っていると、彼奴《あいつ》め殺されるとでも思ったのか、素早く俺の変装を看破して、アッチ、コッチの温泉を逃げまわりやがるんだ。アイツは余っ程、温泉が好きなんだね。しかも行く先々で彼奴《あいつ》の狒々老爺《ひひおやじ》振りを見せ付けられてウンザリしちゃったよ。まったく……」
「妾も大方ソンナ事でしょうと思ってたわ」
「そのうちに今月の五日になって、立山温泉で東京の新聞のアノ広告を見ると正直のところ、二人ともビックリしちゃったんだね。これは大変だ。飛んでもない事が初まらなけあいいがと気が付くトタンに、二人と
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