ち》トキワ映画へお這入りになるような事がありましても、私の方の契約だけは、お約束通りにお願い致します……ってペコペコあやまってんの。ツイ今サッキの事よ。あたし何の事だか、わかんなくなっちゃったわ」
「その名刺、ここに持ってんのかい」
「ええ。ここに在るわ。段原っていう人よ。あたしどこかで聞いた事があるように思うんですけど……」
「エッ……段原……それあお前アノ興行王じゃないか……東洋一の……」
「アラッ。そうそう……あたし写真ばっかり見てたから気が付かなかったんだわ。あの人に妾見込まれたのか知ら……」
「……ウーム。大変な事になっちゃったね」
「あたしドウしましょう」
「ところで本職のロッキー・レコードの方の成績はドウダイ……」
「それが又おかしいのよ。故郷《おくに》の小唄ばかり入れさせられるのよ。故郷《おくに》の発音を西洋人が聞くとトテモ音楽的なんですってさあ。他の人が歌ったんじゃ駄目なんですって……」
「妙だね。ウッカリすると、そいつもやっぱりメード・イン・ジャパンのお蔭かも知れないぜ」
「そうかも知れないわ。でもね、妾の唄った『島の乙女』の裏表が七千枚ずつ二度も亜米利加《アメリカ
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