日にお焼けになったのね」
「ヤット気が付いたのかい。フフフ。これあ温泉焼けだよ。紫外線の強いトコばかり廻っていたからね。お前は元気だったかい」
「ええ。モチよ。あたし四五日前から神戸に行ってたのよ。そうして今朝《けさ》、家《うち》へ帰ってから、貴方の電報を見てビックリしてここへ来たのよ」
「神戸へ何しに行ったんだい」
「それが、おかしいのよ。六甲のトキワ映画ね。あそこから大至急で秘密に来てくれってね。あのアルプスの主婦《ママチャン》の妹さん……御存じでしょう。会計をやってらっしゃる貴美子さん……いつも妾達《わたしたち》によくして下さる。ね……あの人に頼まれたもんですからね。貴美子さんと二人で行ってみたらトテモ大変な目に会わされちゃったのよ」
「何か唄わせられたのかい」
「それが又おかしいのよ。着くと直ぐに美容院の先生みたいな人が妾を捕まえて、お湯に入れて、お垂髪《さげ》に結わせて、気味の悪いくらい青白いお化粧をコテコテ塗られちゃったのよ」
「ハハア。スクリン用のお化粧だよ。それじゃあ……エキストラに雇われたんだね」
「ええ。そうらしいのよ。筋も何もわからないまんまに、美術学校のバンドを
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