と、豚吉はヒョロ子の背中に掴まって、ブルブルふるえながらオイオイ泣き出しました。
ヒョロ子も涙を流しながら、
「ほんとにそうです。けれども私たちが結婚式の晩に村を逃げ出しさえしなければ、こんな眼に会わなかったでしょう。お父さんやお母様や親類の人達に御心配をかけた罰でしょう」
と云いました。
「そうじゃない」
と豚吉は怒鳴りました。
「あの橋を無理に渡って、こんな馬鹿ばかり居る町に来たからこんな眼に会うのだ」
「そうじゃありません。音《おと》なしくあの見世物師の云うことをきいて見世物になっておれば、こんなことにならなかったのです。檻を破ったり何かした罰です」
「そうじゃない。あの無茶先生に診《み》せに行ったのがわるかったんだ」
「そうじゃありません。あの無茶先生がせっかく治してやろうとおっしゃったのを、逃げ出したからわるいのです」
「そうじゃない。お前がおれをこんなに背中に結び付けて、屋根の上を走ったりするもんだからこんな騒ぎになるのだ。お前は馬鹿だよ」
「馬鹿でもほかに仕方がありませんもの……」
「ああ、飛んだ女と夫婦になった」
「そんなら知りません。あなたをここに捨てて逃げてゆ
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