マア、人間掘りなんて初めて聞いた。珍しいこと。御飯はもうおやめにして、ちょっと見てきましょう」
 とお茶を飲んで立ち上って、腰をグッと屈《かが》めながら、低い裏の入り口から出て行って見ました。
 ヒョロ子が裏へ出て見ると、向うの方で大勢人が寄って、土を掘りながら何か騒いでいます。何事かと思って近寄って見ると、こはいかに。豚吉の足が二本、井戸の中からニューと出ておりますから、驚いてすぐに走り寄って、その足を両方一時に掴《つか》まえて、
「ウーン」
 と引っぱりますと、スッポンと抜けてしまいました。それと一所に下から女の児の泣き声が聞えて来ましたので、ヒョロ子は井戸の口から長い長い手を延ばして、女の児の手を捕まえて、スーッと引き上げて上へ出してやりました。
 村の人はもうヒョロ子の力に驚き呆《あき》れて、口をポカンと開《あ》いたまま見ておりました。
 女の児のお母さんは泣いて喜びました。
 豚吉も嬉し泣きに泣きながら、脱いだ着物を着て、最前のめしや[#「めしや」に傍点]に帰って来て、ヒョロ子に今までのことをお話ししますと、ヒョロ子も涙を流して喜んで、
「それはよいことをなさいました」
 と
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